いまもと歯科クリニック 歯科衛生士 和田奈津帆 歯周病になったらどうやって治療していくの? 一般的な歯周病治療の流れは初診時の問診診察検査から歯周病と診断されます。それから治療が開始されます。歯周病治療の2本柱の1つ目はセルフケアのレベルアップと継続。生活習慣の改善。2つ目は医院によるプロフェッショナルケア、詰め物かぶせもの調整、噛み合わせの改善です。次に治療後の検査になります。さらに治療が必要な場合は、歯周外科治療によるプラークや歯石の状況です。その後メインテナンス定期検診へ行きます。セルフケアのレベルアップとその継続とは、歯周病は歯の根元周りに付着したプラークは細菌の塊により歯を支える顎の骨や歯茎が破壊されていってしまう病気です。 歯周病になってしまった場所=プラークが長期間磨き残されていた場所ですから、歯周病の治療には歯周病になってしまった場所のプラークを落とすと、そこに新たにプラークを貯めないと言うことが大切です。そのためには第一に患者さんご自身のセルフケアのレベルアップが不可欠です。歯医者さんの指導をもとにレベルアップした歯磨きを身に付け、それを続けていきましょう。また、歯周病の原因となる生活習慣病や習癖(喫煙、肥満、過度な、飲酒、寝不足、歯ぎしり、頬杖をつくなど)の改善もあわせて行いましょう。 ︎ピックアップ 治療の主役はあなたです。 患者さんによるレベルアップしたセルフケアの継続と歯医者さんによるプロフェッショナルケア(プラークや歯石の除去)などこの2つが歯周病治療の日本柱となります。 歯医者さんが行うプラークや歯石の除去は数ヶ月(歯周病が進行している場合は、数週間収集間)に1回程度。でも、お口の中には毎日プラークが溜まります。そうしたプラークを落とすのはあなた自身です。歯医者さんはあくまでサポート。歯周病治療の主役は患者さんご自身です。レベルアップしたセルフケアをしていても、歯周ポケットの中を始めどうしても磨き残されてしまうプラークはあります。また長期間磨き残されたプラークがした跡は硬く付着するため、歯ブラシでは落とせません。歯周病になって炎症(出血や腫れ)が起きている歯茎には、必ずその近くにプラークや歯石があります。 ︎ピックアップ 歯科衛生士のプロの技!歯周ポケットの中に溜まったプラークや歯石がなくならないことには、歯周病は良くなりません。しかし、歯周ポケットの中には歯ブラシは届きません。そこで歯科衛生士の専門的な技術の出番となります。「スケーラー」と言う器具を用いて、歯を傷つけないように細心の注意を払いながら、歯石を除去していきます歯石塾の器具を歯周ポケット内に差し込みます。プラークや歯石を吸い取るように取り除きます。プラークや歯石が取り除かれたことで歯茎の腫れが収まっていきます。超音波スケーラーと言う機械を用いて準備することもあります。 治療後の検査 レベルアップしたセルフケアを継続し、歯医者さんによるプロフェッショナルケアでプラークや歯石を除去してもらった後は、治療の効果が出ているかを検査してもらいます。 お口の中の写真を撮影して治療前と比較したり、器具を歯ぐきの中に挿し込んで歯周ポケットが浅くなったか、歯ぐきからの出血が減ったかを診るほか、レントゲンを撮影して、お口の骨が減っていないかを調べることもあります。 「よくなってきたからいいかな」と自己判断せず、歯医者さんに言われた通り、しっかり検査を受けに行きましょう。 お口の中の写真撮影 お口の中の写真を撮影して治療前と比較します。お口を広げる器具を入れて、引っ張っていただきます。 歯周ポケットの検査 プローブという細長い器具を挿し込んで、歯周ポケットの深さや歯ぐきからの出血があるかを見ます。プラークや歯石が残っていると、歯ぐきからの出血は残りません。 レントゲン撮影 レントゲンを撮影して、お口の骨の状態を診ます。骨の密度が高いところほどう白く写ります。「感染」した歯は、基本的には元に戻りませんが、少し戻ることもあります。 メインテナンス(定期健診) 歯周病の治療は、メインテナンスへ進みます。治療が上手くいっても、油断したら再発してしまうのが歯周病です。プラークや歯石が長期間溜まると、治療を終えた歯周病に再びなります。おまけに発症したときに今回、再発時にも痛みはありません。 そのため、再発していないかを定期的に半年や1年ごとに歯医者さんで検査してもらい、セルフケアでは取り切れていないプラークや歯石をプロフェッショナルケアで除去してもらいましょう。レベルアップしたセルフケアが維持できているかもチェックしてもらえます。 From Doctor 治療後のメインテナンスはとても大切です! 歯周病の進行度合いやその人のセルフケアのレベルにもよりますが、治療開始から3〜6ヶ月ほどでメインテナンスに移行する人が多いです。ただ、歯周病には「完治」というものがありません。歯周病の進行が止まったとしても、歯周病菌は根絶されたわけではなく、潜んでいるだけです。やっかいな患者さんをまた苦しませないよう、定期的に歯医者さんを受診しましょう。それが治療をふりだしに戻らせずにすむ秘訣です。 歯周外科治療によるプラークや歯石の除去 歯周病の基本的な治療では、残念ながらすべての歯ぐきがよくならないこともあります。そうした場合には、歯周外科治療を行います。歯周ポケットの奥深くに溜まったプラークや歯石には、歯石除去の器具でも届きません。ですが、プラークや歯石が残っている限り、いつまでたっても歯周病はよくなりません。そこで、歯ぐきを開いて、直接目で確認しながら、プラークや歯石を徹底的に取り除きます。 外科と聞いて拒否感を覚えるかたもいるかと思いますが、歯周病の進行を防ぐためには非常に重要な治療です。不安な場合は、歯科医師によくご相談ください。 ︎ピックアップ 歯周外科治療の例(フラップ手術) 歯周ポケットが深く、このままでは奥にあるプラークや歯石を完全には取り除けません。 そこで、歯ぐきを切り開いて、プラークや歯石に直接アプローチします。 きれいに取り除けました。 歯ぐきを戻して縫合します。 「歯周組織再生療法」を行うこともあります。 歯科医院によっては、あごの骨や歯ぐきを再生する「歯周組織再生療法」を行っています。骨のなくなったところに再生材料を詰め、組織の再生を促します。 歯ぐきの形を整えて、歯周ポケットを浅くする外科治療(切除療法)もあります。 歯周病はなぜ痛くない? むし歯はズキズキと痛みが生じますが、歯周病は痛みなく進行します(かつては歯槽膿漏と呼ばれていました)。この「痛みがない」というのが歯周病の怖いところで、歯周病になっていることを自覚しにくかったり、気づかないうちにどんどん進行してしまいます。 ところで、なぜ歯周病は痛くないのでしょう? 大きく分けて2つ、理由があります。 ①「歯ぐきの傷口から体液(血液)が外に出る」で痛くない 手を何かに強くぶつけて腫れたとき、ドックンと響く痛みを思い出してみてください。あれは、心臓から血液が送り込まれたときに、ぶつけたところで血液などを含んだ体液(浸出液)がその場に分泌されるとともに、内圧が上昇し、内圧によって神経が圧迫され、「ズキッ」と痛むのです。 手をぶつけた場合 1. 痛み! 2. 体液が溜まる 3. 内圧が上昇 手をぶつけたところに体液が溜まり内圧が上昇。神経を圧迫して「痛み」が知覚されます。 ② 歯周病の場合 一方、歯周病になると、汚れのついた歯ぐきの奥深くにある歯周ポケットの傷口(潰瘍面)から、血液とともに体液が出ています。そのため内圧が高まらず、神経を圧迫しないので痛くないのです。 1. 痛くない 2. 歯周ポケットの傷口から体液が流出 3. 内圧が上昇しない 歯ぐきの傷口から血液とともに体液が流出。内圧が上昇しないので神経を圧迫せず、「痛み」も知覚されません。 2. 歯周病菌が「神経の受容体を壊す」ので痛くない 痛みは通常、神経を通じて脳に知覚されます。ですが、歯周病菌の出すタンパク分解酵素は、痛みを感じる神経のレセプター(受容体)を破壊してしまいます。そのため、歯周病菌が進むほど、痛みを感じにくくなります。 からだの不調は、ふつうは痛みがあってわかりやすく判断されますが、歯周病にはその痛みはほとんどありません。だからこそ、定期的に歯医者さんで客観的に診てもらわないといけないのですね。 むし歯の場合 痛みのシグナルを神経の受容体がキャッチし、脳に伝えることで「痛み」が知覚されます。 1. むし歯になる 2. 痛みのシグナル 3. 受容体がキャッチ 4. 神経までいく 5. 痛みになる 歯周病の場合 神経の受容体が歯周病菌により壊され、痛みのシグナルをキャッチできません。そのため、脳に「痛み」が知覚されません。 1. 歯周病になる 2. 歯周病菌が受容体を破壊 3. 神経まで行かない 歯周病 なぜなにQ&A 歯周病の治療に関して、よくある疑問にお答えします。 Q. 歯医者さんの指導では、どんなことを教えてもらえる? A. 歯周病になっている場所にうまく歯ブラシをあてるみがき方や、患者さんに合った形や、かたさの歯ブラシ(または電動歯ブラシ)、フロスや間用ブラシの効果的な使い方を教えてもらいます。「歯みがきが下手で教えてもらってもわからない」と思わず、歯医者さんの指導にはぜひ耳を傾けてくださいね。 Q. 歯石除去は痛いからイヤです……。 A. 歯医者さんで歯石除去をしてもらったとき、痛かったり血が出たり、除去後に歯がしみたりして、その後の歯石除去に及び腰になるかたもいるかと思います。ですが、歯みがきをレベルアップして歯石が溜まらなくなるほど、痛みや、除去後の歯のシミは少なくなります。 Q. 歯周病、薬かなんかで手っ取り早く治りません? A. いまの科学では「飲めば歯周病が治る」「塗れば歯周病が治る」という薬はありません。一時的にお口の中の細菌を減らせる薬はありますが、歯周病を改善する唯一の道は、「プラークの除去」です。何度も言いますが、この基本がとっても大切なんですよ。 Q. 歯周ポケットの中は自分で掃除できませんか? A. 歯ぐきの端まわりは歯ブラシが届きますが、歯周ポケットの中の歯垢や歯石は自分では届きません(たとえ糸ようじや歯間ブラシでも)。無理に中に入れようとしてはいけません。歯ブラシをぐっと強く押しつけると歯ぐきを傷つけ、歯ぐきが下がってしまうことがあります。歯周ポケットの中のクリーニングは、歯医者さんにお任せください。 Q. 歯周外科治療を受ければ必ず歯周病は治る? A. 「歯周外科治療をすればどんな歯周病も治る」と言われたいところですが、残念ながら、現実にはそうはいきません。たとえば大抵は、歯周病が進行して骨を伴うと、「根の分岐部」が露出します。この分岐部のくぼみにプラークが溜まりやすく、患者さんがいくら歯みがきをがんばっても、歯周病外科治療に溜まったプラークや歯石を除去しても、完全に歯周病の進行が止まるとは言い切れないのです(とはいえ、進行を遅延させる効果は期待できます)。 Q. 再生療法があるなら治療をがんばらなくてもいい? A. 歯周組織再生療法はたしかに骨や歯ぐきを再生してくれるのですが、限界はあります。「完全に歯周病になる前の状態に元通り」とはいかないことが多いのです。ですから、歯周病になっても「再生療法を受ければ大丈夫」ではなく、やはり歯周病の改善にしっかり取り組みましょう。再生療法にはお金も時間もかかりますから。 いろいろとご説明しましたが、患者さんにしていただくことは 1. セルフケアのレベルアップを継続 2. 歯医者さんへの定期受診 この2つにつきます。治療が終わっても、メインテナンスを欠かさず受けましょう。それが歯周病の再発を防ぐポイントです。 ドキッとしたら要注意! 歯周病かも?チェックリスト □ 歯みがき中によく血が出る □ 口臭がする □ タバコを吸っている □ 糖尿病である □ 家族に歯周病の人がいる □ 歯みがきは時間をかけないほうだ □ 歯ブラシの交換は年に2~3回だけ □ 歯間ブラシやデンタルフロスは使わない □ お酒は好きだが飲むとすぐ顔が赤くなる □ 35歳以上である □ 疲労やストレスがたまりがち □ 歯科医院に定期的に通っていない 赤文字の項目にチェックが1つでも入ったかたは歯周病になっている可能性大。 手遅れにならないうちにすぐ歯科医院へ! 子供の虫歯予防! フッ素配合歯みがき剤を使おう! 子どもの歯はむし歯になりやすいからこそ、フッ素(フッ化物)による歯の修復・強化が欠かせません。フッ素配合歯みがき剤には、年齢ごとに推奨される濃度や量があります。 歯が生えてから2歳 フッ素濃度:1000ppm(製品では900~1000ppm) 歯みがき剤の量:米粒程度(1~2mm程度) 目標:歯ブラシに慣れさせて、歯みがきの習慣づけをする。 3~5歳 フッ素濃度:1000ppm(製品では900~1000ppm) 歯みがき剤の量:グリーンピース程度(5mm程度) 目標:仕上げみがきを行いながら、お子さん自身での歯みがきを習慣づけていく。 6歳から フッ素濃度:1500ppm(製品では1400~1500ppm) 歯みがき剤の量:歯ブラシ全体(1.5cm~2cm程度) 目標:自立した歯みがき習慣を徐々に身につけさせていく。 ダラダラ食べ・ちょこちょこ飲みは厳禁! 歯に付着した細菌は、食べものを口に入れると酸を出して、むし歯になりやすい環境をつくります。摂取するお砂糖の量よりも、飲食回数に気をつけましょう。特に乳歯はむし歯になりやすいので要注意です。 哺乳瓶に入れたジュースなどによる「哺乳瓶う蝕(むし歯)」は乳幼児に多かったものの、現在ではほとんど見られなくなりました。ですが、3~5歳の小児であってもたくさんの砂糖を日常的に摂取していると、同じような状態が見られます。それが「ペットボトルカリエス」です。砂糖入り飲料水のペットボトルを、時間を置かず頻繁に飲むことにより、しっかり歯を磨いていたとしても、むし歯が多発しているのです。むし歯を予防するために大切なことは、おやつを一回のみに考えましょう。 フッ素を塗ってもらおう! 歯科医院では、9000ppmと非常に高濃度のフッ素を塗布してもらえます。定期的に塗布することで、歯科受診の習慣づけにも役立ちます。 子どものころから定期的な歯科受診を! 乳歯や生えたばかりの永久歯はむし歯になりやすく、しかもむし歯になると進行が速いです。また、奥歯のむし歯は親御さんが気づかないことも多いので、4ヶ月に1度は歯科の定期検診を受けることをおすすめします。学校の健診で「むし歯がない」と言われても、レントゲンなど、歯科の専門の装置で調べてみなければわからないむし歯もあります。 むし歯だけでなく、歯並びや歯の生えかわり、あごの成長発育についても歯科医で見守ってもらえます。子どものころから歯科受診の習慣を身につけておくと、一生の財産になりますよ。