奈良県葛城市いまもと歯科クリニック歯科衛生士の永山春日です。
〜歯根の治療はなぜ難しい?〜 神経は、歯を生かしている大切な器官。でも、最近が入り込んで神経が侵され激しく痛んだり、肝心の神経が死んでしまったら?!そんな歯を残したい、神田さんのための究極のワザ、それが「歯根の治療」。感染を起こした神経と細菌を除去するいわば「歯の外科手術」なのです。 痛んだ歯を残すための奥の手。それだけに難しいのです! 「神経を取らなければならない」てどんな時? 神経(歯髄)とは、栄養や水分を歯に供給する大切な器官。歯から顎を通り、そして脳へとつながる高性能センサーとしての役割も担っています。神経は、歯の生命維持を司り、歯科にとって、「歯の神経の健康を、いかに長く維持するか」は、最も重要な命題です。 ただし、虫歯などが原因で、歯の内部に細菌が入り込むと、神経が細菌感染を起こしてしまいます。痛みが強く患者さんの生活に支障が出たり、神経が壊死して回復が望めない場合、感染した神経を取り除かざるを得ません。これが「歯根の治療」です。この治療によってうまく細菌を取り除くことができると、この歯を引き続き使い続けることが可能になるのです。 細菌感染のために神経が壊死してしまうと、センサーが働かなくなるため、それまで感じていた痛みが一時的に消えます。ところが実際には、神経のいのちとともに細菌に対する歯の抵抗力も失われるので、内部では細菌がどんどん繁殖しています。 「痛くないから」と放っておくと、いずれ突発的にひどく腫れたり、強い痛みで悩まされることに。まるで時限爆弾を抱えているようなものです。しかも放置すればするほど発作はひどく、歯を残すことがさらに困難になっていきます。早めの治療を心がけましょう! ①歯根の治療ってどんな治療? こんなふうに、治療します!(写真1) 歯の内部で繁殖した細菌を器具や薬剤を使って徹底的に取り除き密閉する治療です。 ・歯の痛みとは辛く耐えがたいもの。どうすれば痛みを止め、深刻な細菌感染を起こした歯を残すことができるのでしょうか? 「歯が痛い」とは、そもそもは「歯の内部やその周辺で異常事態が起きている」と完治した神経のアラームがオンになっている状態のこと。トラブルの発生を脳に伝え、教えてくれているわけですから、それ自体は悪いものではありません。むしろ、体内で起きている異常を知らせてくれる、ありがたい警報です。 ただ、なりっぱなしではたまりません。何とかして止まって欲しい。そこで必要とされるのが歯根の治療です。歯根の治療とは、アラームが作動してしまう原因をしっかりと取り除くと言うもの。歯の内部で暴れている細菌がアラームのなる原因を作っているのですから、細菌感染した神経を取り除き、歯の内部を掃除して殺菌し、しっかりと蓋をします。そして歯科医師ができるのはここまで。やれるだけのことを精一杯行い、しばらく待っていると、邪魔者がなくなることで、患者さんの体の治癒する力によって炎症が治まり、いつしかアラームがオフになります。その結果、痛みが引く、と言うわけです。麻酔や痛み止めによってアラームを解除しても、その効果は一時的で根本的な解決にはなりません。原因を除去すれば、患者さんの体の治癒力により痛みが止まり、うまくいけば抜歯を回避することができて、その歯を長く使い続けることができるのです。技術的には大変細かく困難な治療で、しかも治療結果は、患者さんご自身の治癒力や全身の健康状態にも影響を受けるため、成功するケースばかりではありません。しかし、成功すれば歯を残すことができ、患者さんにとって多大なメリットがあります。それではまずは、皆さんの歯の内部をどんなふうに治療していくのか、その工程からご紹介していきましょう。 ②治療が難しいそのわけ。 患者さんの歯は、とても個性的!意外な場所に根管が隠れていたり、中には、どうやっても治療器具の届かない根管もあって掃除が困難な歯が多々あります。(写真2) ・歯根の治療は、虫歯が大きく広がってしまった歯の治療として行われることが多いです。ですので、ただの虫歯の治療なのに、なぜそんなに難しいんだろう?と不思議にお思いなのでしょうね。 小さな歯の中の細かく枝分かれしている神経で感染を起こしている細菌を、くまなく取り除くと言う事は技術的に非常に困難です。歯根の治療に用いるのは、金属でできた極細の器具(ファイル、リーマー)です。この器具を使って根気よく神経が通る根管の中で繁殖している細菌感染を取り除いていきます。もちろん歯を痛めてしまってはいけませんので、慎重に慎重に行います。まず大変なのが、神経の通る根管を探し当てること。根管の本数や枝、別れの仕方は十人十色で、とても個性的です。(写真2)の左の写真をご覧ください。マイクロスコープで拡大すると矢印のところに根管があるのが見えるでしょうか。こんなふうに隠れている根管まで、残らず探し出すということが、まず大きなハードルです。そして、見つけ出した根管は素直に一筋に伸びているとは限りません。図のように曲がったり分岐したり、網目状に広がったり、複雑な形をしていることの方がむしろ多いのです。私たちの用いる器具は、こうした根管の一部にしか届きません。無理して入れようとすれば、歯を壊してしまう恐れがあります。 実は、海外の研究の中には、メインの太い根管に器具を使っても掃除できるのはせいぜい65%程度だと言う報告もあります。まして細かく枝分かれした根幹ではさらに難しい。歯根の奥まで可能な限りの技を尽くして掃除し、後は薬剤で消毒するしかないわけです。 とは言え薬剤も、瞬時に細菌が死ぬほど強いものを使うと、歯や周囲の組織を痛めてしまいかねません。細菌によっては、しつこく強いものもいます。しかし、ここまでの行程でしっかり殺菌できると、後は患者さんの体の抵抗力によって治癒へと進んでいくことができるのです。 そこで大変重要になってくるのが、患者さんの抵抗力です。細菌を可能な限り取り除いた歯を、最終的に治癒に導いていくのは、他でもない患者さんご自身の抵抗力だからです。治療のバトンを受け取って、最後は生体が直していく。患者さんの全身の健康状態によっては、治癒するまでに時間がかかる場合もあります。 歯根の治療が成功するまでには、こうした様々な要素が噛み合っています。症状が進み、炎症が強くなるほど成功率が下がってしまうので、普段から虫歯予防を心がけ、お早めの来院をお願いします。 ③再治療はさらに難しい! 既に一度歯根の治療をしてある歯に再び炎症が起き、再治療が必要になると、初めて神経を取った時よりも治療の成功率が落ちてしまいます。歯根の先まで詰まっている詰め物を残らず取り除くことが難しく、薬剤が届きにくいのも一因です。 ・歯根の治療は、成功すれば歯の寿命をぐっと伸ばすことができる。歯を残すための最終手段です。それだけに、患者さんの期待は大きく責任は重大です。 ただ、残念なことに前ページでもお話しした通り、すべての治療がうまくいくわけでは無いものも事実。掃除+殺菌剤で治療をしても、それをかいぐって歯根に残った細菌のパワーが、不幸にして患者さんのからだの抵抗力を上回ってしまった場合。あるいは、いったん成功しても、クラウンの縁などからあらたにむし歯が入り込み、歯根の内部がふたたび細菌感染してしまった場合。こうしたケースなどでは、再治療が必要になります。ところが、最初の歯根の治療と2度目以降では、2度目以降の治療は格段に難易度が上がり、成功率が低くなってしまうこと、ご存知でしたか?というのも、歯の中にはすでにしっかりと詰め物をしてあり、このゴム状の詰め物は細かく枝分かれした根管にも入り込んでいます、隈なくすべて取り除く、ということはどだい不可能なのです。 詰め物の材料自体は、悪さをするものではありません。問題なのは、取りきれない詰め物が柱のようにピタリと塞いでいて、届かせたい場所に殺菌剤を届かせることができないということ。治療にとって非常に不利で、歯内療法の専門医がやっても再治療の成功率は落ちてしまいます。 治療を重ねるごとに技術的な難易度が高くなってしまう歯根の治療。神経を取った歯の場合、よほど進行しないと痛みが出ず、発見が遅れがちです。日頃から歯科医院でメインテナンスを受け、早期発見を心がけましょう。(写真3) ④さらなる奥の手、根尖切除術。 ・通常の歯根の治療を丁寧に徹底的に行って、太い根管の中をすっきりきれいにしてもなかなか治らないと言うケースは確かにあります。特に歯根の先のほうは、根管が細い枝のように分岐していることが多く、そうした場所にしつこい細菌が生き残ってしまうことがあるのです。 また歯根の外にある膿、その中に潜んでいる細菌が、歯の外側を包むセメント質を汚していることがあります。こうした歯の外面にまで、細菌感染が及んでいると、通常の歯根の治療では間に合いません。器具も殺菌剤も届かない場所では細菌をやっつけることができないからです。 そこで有効なのが根尖切除術と言われる外科的な歯内療法です。歯茎を切って問題の歯根の先が覗くように、歯槽骨に小さく穴を開けます。そして細菌感染している歯根の一部をチョキンと切り取り、切り口を密閉する、という治療法です。こうすることで歯根の先もろとも、細菌を除去することができます「どうせこの治療が必要になるんだったら、最初からこの治療をしてくれればよかったのに」とおっしゃる。神田さんがたまにおられます。でもそれはしてはならないことです。なぜなら、汚れた歯根の先を切って捨てたとしても、もしも肝心の根管の掃除が不完全で細菌がウヨウヨしていたら、いくら歯根の先を切り取って切り口を密閉しても(当座は、もしかしたら楽になるかもしれませんが)抜本的な解決にはならないからです。 根尖切除術を行うのなら、まずはしっかりと通常の歯根の治療をしたその後で。なぜなら、細菌が歯根の外側まで汚しているかどうかはミクロの世界の話ですから、X線写真でもマイクロスコープでも追跡することはできません。しかるべき順序を踏んで治療し、経過観察をして、段階的に問題を絞り込んでいく以外に効果的な手立てはないのです。 最終的に根尖切除術が必要になったとしても、それまでの先生の歯根の治療が失敗したのではありません。むしろ、しっかりと歯根の中を治療できているからこそ、問題の絞り込みが可能になったのだと思います。 治療のセオリーに乗っ取り、段階を踏んで治療が進んでいるようですので、もしも通常の歯根の治療で、トラブルが終息しない場合は、根尖切除術を行うかどうか、歯科医師とよく相談し検討してください。(写真4) ⑤すぐに痛みが引かないのはなぜ? 歯根の治療とは小さいとは言え、歯から脳までつながっている神経の一部分を切り取る外科手術です。体の一部を切除するのですから当然少なくとも数日は痛みが続きます。治療後すぐに痛みがなくならないのはそういうわけなのです。ぜひご理解をお願いいたします。 ・歯根の治療では、痛みのセンサーである神経をとってしまうので、治療を受ければすぐに痛みがなくなり、楽になると思われがちです。即座に痛みをとって差し上げたいと思います。しかし、現実的にはなかなかそうはいきません。 と言うのも、歯根の治療では、歯の中を通っている神経を切除します。歯根の治療とは、本来外科手術に入る治療だと言うことです。こうご説明するとご理解いただけるのではないかと思います。 ご存知の通り、歯を通る神経は顎の骨の中を通って三叉神経から脳へとつながっています。この神経を1部分だけ切り取るわけです。怪我をして塗った時と同様、ズーンズーンという痛みが数日続き、通常はその後落ち着いてきます。なお、歯の神経が切除された後も、歯の外側にある神経は残っていますし、やはり歯に加わる力の鋭敏なセンサーである歯根膜の存在もあります。感染が強く歯の外側にも影響が及ぶと、こうした器官の関与する違和感や痛みが生じてしまいます。 また、これは②でもお話ししましたが歯根の治療は、細菌を除去して、生体が治癒しやすいような環境作りをするための治療です。 細菌をしっかり取り除いても、生体の力が立ち上がり、炎症を押さえ込んで働き始めるにはやはり一定の時間が必要です。健康な方でも治療後には痛みが出ますし、治癒に向かう期間には個人差があります。 もう一つ激烈に腫れてい痛んでしまうケースについてご説明しなければなりません。それは私たちがフレアアップとか、術後疼痛と呼んでいる現象で、治療している途中で起きるものです。おそらく真面目にしっかりと治療している歯科医師なら必ず経験しているでしょう。。 原因は色々と言われています。いわく器具による歯根の奥のつつきすぎ。あるいは根管内を掃除する刺激で、一部の細菌が一時的に元気になってしまうことなどです。 つつきすぎがいけないと言っても、歯根の先まできれいにしなければ、根本的な治癒は望めないのですから、歯根を傷めない限りは、しっかりと器具を奥まで通して掃除をせざるを得ません。通常通りに治療していても100件に数件こうしたことが起こります。腫れた際は抗生剤を投与し、仮の蓋を取って膿を出せばスーッと数日で落ち着いてきます。 歯の中は普段空気がなく、そこへ器具を使うと空気と一緒に酸素が入ります。細菌には酸素が苦手な種類と、酸素が大好きな種類がいて、いつもは酸素好きの細菌は、普段触れられない酸素に触れると急激にワッと増殖します。これがフレアアップの腫れや痛みの直接の原因です。 もしこうしたことが起きた場合は、すぐに治療中の歯科医院へ連絡してください。抗生剤と応急処置でだいぶ楽になります。治療過程で出る一時的な炎症で、治療が失敗したと言うことでは全くありません。失敗したと思って、他の歯科医院へ行ってしまうと、治療が振り出しに戻ってしまいます。 歯根の治療と痛みや違和感は切っても切れないもの。しばらくは辛いでしょうが、一緒に頑張って乗り越え、良い治療にしていきましょう。 ⑥早期予防&治療で歯の命を大切に! 歯根の治療が成功し、すんでのところで歯が助かったら、次は、その大事な歯と周囲の歯をより長く使い続けられるよう予防をして守っていきましょう。これまでのやり方をそのまま続けていると、再び同じことが起こってしまう可能性が!定期的にメンテナンスを受けて、予防法を見直していきましょう。 ・歯根の治療が終わり、痛みがなくなってしまうと、その歯が痛んで辛かったこと。歯を失ってしまっては困ると悩んだことを忘れがちになります。まして、新しくクラウンが入り、見た目もすっかりきれいになればその歯が良くなった。元通りになったと、つい思いたくなるお気持ちもわからないではありません。一方治療が終わって、炎症が治まっていると診断されてもなんとなく噛んだ感じが元の歯と違う元通りになるはずなのに、まだちょっと違和感があると感じている方も中にはおられるかもしれません。 しかし、これで良くなったと喜んでくださることも、元通りになるのはずが、どうも微妙に前と違うとお感じになることもどちらにも同じような誤解が含まれていると言うことにお気づきいただけるでしょうか。 と言うのも治療した歯は、決して元通りになったのではありません。歯の中には失った神経の代わりにし、材料のガッタパーチャが詰まっています。生体にとって安心な材料である事は言うまでもありませんが、それでも厳密に言えば体にとって異物であることには変わりありません。 患者さんの歯を何とか残して、噛み心地が元の歯に近づくよう精一杯の努力をします。 しかし、治療が終わり幸いその治療が成功して、歯が残ったとしても、私たちはその歯を病気になる前の良い歯と全く同じ状態に戻して、さしあげる事は到底できないのです。 先にお話ししたように歯根の治療とは、技術的な面だけを取り上げても、非常にハードルの高い治療で、症例によっては救えない歯は必ずあります。また患者さんのご体調によってもその治療後の経過は様々です。一生懸命通院して何とか残せた大事な歯。それも長く持たせるにはどうしたら良いのでしょう。 皆さんにぜひお願いしたいのは、辛い治療が再び必要にならないよう、予防と早期治療を心がけていただきたいと言うことです。 神経を取った歯はアラームが鳴りません。新たな虫歯を作らないように、治療した歯こそ毎日の歯ブラシを丁寧に行ってください。そして、ぜひ定期的に歯科医院でメインテナンスを受けていただきたいのです。これまで守りきれなかった大切な歯をプロの手も借りて、一緒に守っていきましょう。歯根の治療が終わった時が新しいスタートを切るチャンスです。これからは、歯科医院との新たなお付き合いをはじめてみませんか。