こんにちは 奈良県葛城市にあるいまもと歯科クリニックの歯科衛生士の永石です。 今回はオールセラミックCAD/CAMクラウンのお話をさせていただきます。 CAD/CAMクラウンとは、コンピューターで設計や製造を行う被せ物です。歯科材料の進化で今や審美性、耐久性ともにおすすめのものになります。 「オールセラミックCAD/CAMクラウン」とはCAD/CAM=computer Aided Design/computer Aided Manufacturing の略で、デジタルの技術を使って作られる自費治療の被せ物の通称です。「CAD/CAM冠」と通称されている保険の被せ物(硬質レジン製)と紛らわしいですが、何が違うのかというと、使用する材料や製法が異なるのです。このCAD/CAMクラウンの制作に使われるのは全てセラミックです。エナメル質の硬度にもっとも近い材料で保険治療で使用される硬質レジンのような吸水性がないので、変色しにくく耐久性があるという、すぐれた特性を持っています。このオールセラミックCAD/CAMクラウンの良いところは、自費治療とはいえ、材料を機械で削り出して製作するのでいちから手作りする従来の製法とくらべて治療費が手頃なことです。しかも近年はCAD/CAM用の歯科材料が格段に進化しているので、審美性も向上しています。なかでもセラミックの一種のジルコニアという材料は、課題とされてきた色調や透光性(とうこうせい)の問題をクリアして、従来の耐久性に加えて審美性もかねて備えるようになりました。それでここからは、近年大きく様変わりしているオールセラミックCAD/CAMクラウンの被せ物の選択肢について、代表的な材料の紹介とともに解説していきましょう。 オールセラミックの被せ物のタイプは3種類です。 ①ニケイ酸リチウムガラス 「e-maxキャド」「イニシャルLiSi」 という製品名で知られています。硬度がそれほど高くないため、材料をそのまま機械で削り出して仕上げます。 ②フルジルコニア 透光性と自然な色調を兼ね揃えた新タイプのジルコニア(モノリシックジルコニア)を使用します。従来の硬度に審美性が加わり、前歯から奥歯、ブリッジまで幅広く適用します。 ③ジルコニア+陶材 ジルコニアの表面に陶材を焼き付けます。歯科技工士が精緻な手作業で仕上げる高価な被せ物ですが、力のかかり方によっては陶材の欠けや剥離など起きることがあります。 自費治療のオールセラミックCAD/CAMクラウンが主流になる前は陶材焼付冠(とうざいやきつけかん)というものがよく使われていました。金属を使用するため頑丈なことがメリットですが、金属アレルギーや歯茎黒ずむリスクがあります。 また、すべてセラミックで作ったオールセラミックと比較すると透明感や白さが劣り、角度によっては金属の土台が見えてしまうことがあります。 〈丈夫でうつくしいいまどきフルジルコニア〉 「硬すぎて歯に悪い」「透けないからナチュラルではない」という評価は過去のもの。現在フルジルコニアに使用されてる材料を紹介しましょう。ジルコニアはたいへん硬度の高い丈夫なセラミックです。そうした理由からか、「フルジルコニアの被せ物は噛み合う歯を削ってしまう」と、確かに以前はよく言われていました。しかし、その後の研究の結果、硬質で傷みにくいジルコニアは表面がツルツルのままなので、むしろ他の材料にくらべ噛み合う歯を痛めにくいことがわかっています。日々の臨床実感にこのエビデンスが加わったこたで、私たち臨床家はフルジルコニアを以前より増して、自信を持ってお勧めできるようになりました。もう一つの最近の注目されているのがCAD/CAMに用いるジルコニア材料の進化です。従来のジルコニアには「透けない(透光性がない)」「色調が限られる」という弱みがあり、はジルコニアの被せ物は、目立たない奥歯にしから使えませんでした。ジルコニアを前歯に使う場合は、表面に繊細な陶材(力がかかると欠けやすい)をもって焼き付けるジルコニア+陶材の選択肢しかなかったのです。しかし現在では、透光性のあるジルコニアが開発され、色調のバリエーションも増えたことで前歯の被せ物も、耐久性のあるジルコニア単体で実現できるようになりました。従来のオールセラミックの治療では、丈夫さをとれば審美性が、審美性をとれば、丈夫さが条件付きにならざるを得ませんでした。上部で審美的なフルジルコニアの治療が可能になったことは患者酸にとってメリットだと考えています。 ジルコニアは透光性を高くするほど、強度が低くなります。そこでかかる被せ物の根元には透光性が低めの高強度なジルコニアを、力のかかりにくい先端には透光性の高いジルコニアを、積層することによって、十分な強度と審美性を備えた材料が、誕生しました。 〈ニケイ酸リチウムガラスとジルコニア+陶材の被せ物〉フルジルコニアの被せ物ほどの強度がないため、被せる場所や歯ぎしりのくせなどによっては向き不向きがあります。 ニケイ酸リチウムガラスの被せ物は「e-maxキャド」「イニシャルLiSi」という通称(製品名)で知られています。硬度が低めのセラミックで、設計→削り出し→仕上げというシンプルな工程で作られるCAD/CAMの被せ物です。ジルコニア+陶材の被せ物は焼き上げた硬質なジルコニアの上に何重にも陶材を盛って仕上げるもっとも審美性の高い被せ物になります。内側のジルコニアは硬くて丈夫ですが、表側に盛る陶材のほうは、力のかかりかたによってはかけてしまうのが難点です。 ●ニケイ酸リチウムガラスの被せ物 ニケイ酸リチウムガラスのは先ほど製作順をお伝えした通り、CAD/CAMの技術で完結させられる被せ物で、機械で削り出したあと、ジルコニアのように焼き上げる必要がありません。と、いうのも、ニケイ酸リチウムガラスはセラミックの材料のなかでは硬度の低い部類に属するので、切削機械のバーで材料をそのまま切り出して仕上げることができるからです。製作工程がシンプルなため、オールセラミックCAD/CAMクラウンの中では手頃な価格の被せ物ですが、奥歯のブリッジには不適応。また、歯ぎしりの癖があるかたには、耐久性が足りないこともあります。ご希望の際には、かかりつけの歯科医師にご相談ください。 ●ジルコニア+陶材の被せ物 透光性のない、従来型の丈夫なジルコニアのフレームの上に、光をよく通す陶材をほどこした被せ物です。歯科技工士がひと筆ひと筆と陶材を盛って、手作業で仕上げるため、審美性がもっとも高く、天然歯との調和を特に重んじる方の前歯に使われることが多いです。当然ながら、治療の費用も高価になります。耐久性については、フレームのジルコニアはたいへん丈夫なものの、表面に盛った陶材は、かたよった力がかかったり、歯ぎしりのをすると欠けたり剥がれることもあります。噛む力が強いかたなど、患者さんにとっては、不向きの場合があるので、ご希望の際はかかりつけの歯科医師にご相談ください。 フルジルコニア、ニケイ酸リチウムガラス、ジルコニア+陶材の被せ物のそれぞれ特徴をまとめていきましょう。あなたははどれがお好みですか? ●フルジルコニア(前歯) [材料]ジルコニア(単体) 耐久性◎/審美性◎〜◯ ・おすすめポイント ①セラミックでもっとも曲げ強さと破砕抵抗性があり、欠けや割れが起きにくくて丈夫。 ②研磨されたツルツルのジルコニアは噛み合う天然歯を磨耗させにくく、ジルコニア自体も傷みにくい。 ③審美性が課題だったが、近年透明感こある材料が開発され、前歯の治療も十分可能になった。 ④他のCAD/CAMの被せ物にくらべて、歯の削除量が少なめ。 -point- ・透明感と色に多少制限があるため、高い審美性を求める場合、隣の歯の色調によってはいくらか不揃いな印象になることも。 ●フルジルコニア(奥歯) [材料]ジルコニア(単体) 耐久性◎/審美性◎〜◯ ・おすすめポイント ①セラミックでもっとも曲げ強さと破砕抵抗性があり、強度の求められる奥歯のブリッジにも使うことができる。 ② ②研磨されたツルツルのジルコニアは、奥歯に使用しても。噛み合う天然歯を磨耗させにくく、ジルコニア自体も傷みにくい。 ③奥歯用として十分な審美性を揃えている。 ④他のCAD/CAMの被せ物にくらべて、歯の削除量が少なめ。 --point— ・丈夫とはいえ、強度ではなんといっても金属の被せ物にはかなわない。 ●ニケイ酸リチウムガラス [材料]ニケイ酸リチウムガラスのブロック(単体) 耐久性◯〜△/審美性◎〜◯ ・おすすめポイント ①ガラス系セラミックでありながら、陶材よりも、破損しにくい。 ②透明感があり、歯の色調と調和しやすい。 ③オールセラミックの被せ物のなかでは、比較的に安価。 —point— ・ジルコニアや金属の被せ物にくらべると強度がおとる。 ・力のかかりかたによっては欠けることもある。 ・奥歯にあまり向いていない ・とくに強度がもとめられる奥歯のブリッジには向かない。 ・歯ぎしりや食いしばりが強い人には不向き。 ・土台の歯の色が透けやすい。 ●ジルコニア+陶材 [材料]内側(補強構造)はジルコニア 外側は陶材(ポーセレン) 耐久性◯〜△/審美性◎ ・おすすめポイント ①透明感のある陶材を、歯科技工士がひと筆ひと筆と盛って歯を模した色調に仕上げるため、オールセラミックの被せ物のなかでも、もっとも審美性が高い。 ②内側のジルコニアによって、歯の土台の色を隠すことができる。 —point— ・陶材がデリケートなため、力のかかりかたによっては欠けや剥離が起こることがある。 ・歯ぎしりをする人には不向き。 ・オールセラミックの被せ物の中でもっとも高価。 オールセラミックCAD/CAMクラウンの基本的な特徴とは? ・変色、着色せず、プラーク(細菌のかたまり)がつきにくい。 ・金属アレルギーが起きない ・金属色なら影響がないので、被せ物と歯ぐきの自然。 ・金属に比べると強度が劣る。 ・自費治療になる。 このお話は、近年開発された、画期的なジルコニアを使ったフルジルコニアの被せ物を中心に、CAD/CAM (CAD/CAM=computer Aided Design/computer Aided Manufacturing )の技術を用いたオールセラミックの被せ物をご紹介してきました。オールセラミックといえば「きれいだけど弱い」ジルコニアといえば「硬すぎて歯に悪い」といわれていた頃とは、まったく様変わりしていることが理解いただけたことと思います。ところで、CAD/CAMの被せ物といえば、金属を使わせない治療が国をあげて推進されており、保険治療でも、CAD/CAMクラウンの被せ物の治療を受けられるようになりました。そこで、今回ご紹介した、自費治療のの、CAD/CAMクラウンと、保険治療のいわゆる「CAD/CAM冠」の違いについて、お話ししていきましょう。自費治療のCAD/CAMクラウンはセラミックです。保険治療のCAD/CAM冠で使えるのはハイブリッドセラミックです。ハイブリッドセラミックとは、実は、セラミックではなく、セラミックの粒子の入った硬質レジン(プラスチックの仲間)です。レジンには給水性があり、噛む力が加わると軟らかいのでひずんで曲がりやすく、被せ物との歯の接合部が浮くような作用が生じるために、被せ物が脱離しやすいのです。歯ぎしりや食いしばりをする方の場合、特にこと影響が強く現れます。一方、自費治療に用いられるセラミックはというと、硬質で曲がりにくく、ひずみがでにくいため、被せ物と歯の接合部が浮きにくく、傷みにくいです。保険治療と自費治療では、じつは見た目だけではなく、耐久性も異なるというわけです。とくに、フルジルコニアの被せ物は、硬質で曲がりにくいので歯ぎしりや、食いしばりによるひずみがでにくく、陶材の表面加工もらないので細やかな欠けや、ヒビができず、噛み合う歯を磨耗させにくいということがわかっています。米国ではすでに、フルジルコニアがもっとも使われているとのデータもあり、また日本国内でもさかんに使われはじめています。満足のいく治療を受けるために、ぜひ今後の治療の新たな選択肢として参考にしてください。 保険適用の被せ物は、銀歯かCAD/CAM冠と呼ばれる白い被せ物が使用され、どちらも治療費が安価で済みます。保険制度自体は優れている一方で、使用できる材料に制限があったり、治療に設けられる時間が短かったりなど、さまざまな問題点があります。 被せ物は歯の機能と、見た目の回復を目的としています。銀歯は見た目が目立ち、むし歯になりやすく、CAD/CAM冠は白い被せ物ですが、強度が弱いなど問題点があり、長期的に見ると保険の被せ物では不十分と言えます。 被せ物を選ぶときは、銀歯、CAD/CAM冠、セラミックの違いをよく比較して検討することをおすすめします。 銀歯の特徴 銀歯は一般の歯科治療でよく用いられる被せ物で、非常に強度が高い素材です。保険が適用するため、1本あたり、3,500円程度と費用が抑えられます。 しかし、臨床では「銀歯を除去したら、むし歯が進行していた」ケースが非常に多いです。金属は熱で膨張し、冷たいと収縮する性質があります。そのため、接着剤と銀歯の間にすき間が生じやすく、そこにむし歯菌が侵入すると被せ物の下でむし歯になります。 また、銀歯に使用される金属は金銀パラジウム合金が使われているため、金属アレルギーを引き起こす可能性があります。金属アレルギーの症状がなくても、お口の中に金属がある限り、金属イオンが溶け出して蓄積しているので、突然アレルギーを発症することがあります。 銀歯のメリットとデメリット 銀歯は見えない部分に銀歯を入れる方も多いですが、メリットとデメリットを理解しておきましょう。 銀歯のメリット * 保険が適用するので安価 * 強度が強く、割れたり欠けたりすることがほとんどない * 噛むといった機能性はセラミックと同じ 銀歯のデメリット * 見た目が金属色で目立つ * 金属アレルギーを発症する可能性がある * 銀歯の下がむし歯になりやすい * 歯肉が変色(メタルタトゥー)する可能性がある * 表面に傷がつきやすく、むし歯や歯周病に罹患しやすい ・患者さんにの症例(噛み癖や周りの歯の状態など)によっては、被せ物の選択肢に向き不向きがあります。かかりつけの歯科医師に希望を伝えてよく相談しましょう。 ・お口の中に歯ぎしりや食いしばりの痕がないかをかかりつけの歯科医院で診てもらい、もし歯ぎしりや食いしばりをしているようならマウスピースをつくり、毎晩装着して就寝しましょう。(就寝用マウスピースは保険で作成可能です) ・上手な歯磨きの仕方をかかりつけの歯科医院の歯科衛生士に教わり、お口のなかの清潔をたもって、むし歯の再発を防ぎましょう。 ・歯科医院での定期的にクリーニングと歯科検診を受け、歯科のプロフェッショナルといっしょにお口の健康を守っていきましょう。