奈良県葛城市いまもと歯科クリニック、歯科衛生士の阿部です。 口臭が気になる方はたくさんいらっしゃいますが、意外と知られていないのが「口臭の原因は歯科に関するものが少なくない」ということです。口臭物質の温床になりがちなのは、歯周病や舌苔、溜まったプラーク、大きな虫歯、汚れたいればなど。それらを歯科で治療してもらったり、清掃の仕方を教えてもらうことで、口臭が改善されるケースもめずらしくありません。口臭対策は1人で悩むより歯医者さんでお口をみてもらうのが近道です。 口臭とはそもそも何? 口臭には「生理的な口臭」と「病的な口臭」があります。生理的口臭は、朝起きた時に口がにおうなど誰にでもある一時的な口臭で、1日のうちに自然に消滅します。食べ物や飲み物、タバコをはじめとした嗜好品などの成分が一時的に口からあるいは肺からにおうというのもこれに含まれます。一方、病的口臭は、持続的に発せられるにおいです。いわゆる不快な口臭と客観的に認識されやすいもので、においの原因がなくならない限り存在し続けます。歯周病などのお口の病気や、鼻炎などの耳鼻咽頭の病気、糖尿病や肝疾患など全身の病気により起こります(におい物質が血液を巡って肺から呼気へ移ります)。 生理的口臭と病的口臭は明確に2つに分けられるものではないですが、強い口臭が続くというのは、お口か全身に不調が起きているシグナルと言えます。 口臭の大部分(80%以上)は、お口の中の気体に由来します。その主要な原因物質は「揮発性硫黄化合物(VSC)」である硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドです。なかでも硫化水素とメチルメルカプタンが約90%を占めると言われています。特に歯周病は強烈な口臭のもとになっているのですが、厄介なのは自分ではなかなか気づかないことです。また口臭にはにおいの種類があり、それによって原因も異なります。 口臭の3大原因物質について、説明します。まず「硫化水素」は、硫黄と水素があわさった揮発性硫黄化合物で、腐ったたまごのようなにおいを発します。主に磨き残したプラーク(細菌のかたまり)に由来します。火山ガスや温泉に含まれる、いわゆる「硫黄のにおい」はこの硫化水素のにおいです(硫黄自体は無臭)。次に「メチルメルカプタン」は、メタンチオールとも呼ばれる揮発性硫黄化合物で、腐ったタマネギのにおいを発します。主に歯周病に由来し、歯周病菌の代表であるPg菌により生み出されます。最後に「ジメチルサルファイド」は、硫化ジメチルとも呼ばれる揮発性硫黄化合物で、生ゴミや腐ったキャベツのようなにおいを発します。体の病気や、持病のお薬の影響で発生しやすい傾向があります。10年ほど前は、都市ガスのにおいづけに使われていました。 においのもとはどこにある? 口臭の原因はお口の中にこそあります。よくある歯科的な要因をご紹介します。 ①溜まったプラーク 歯に付着したプラーク(歯垢)は細菌のかたまりです。たった数グラムのプラークに何億もの細菌がいるといわれています。プラークはお口に長くあるほど硬くなっていき、歯ブラシでは落ちにくくなります。そしてやがては歯石になります。長く残って熟成したプラークは、においのもと(おもに硫化水素)となります。歯と歯のあいだや、歯と歯ぐきの境目にもプラークは溜まります。ここに溜まったプラークは、隣接面むし歯や歯周病の原因にもなります。人工物であるかぶせものの周りにもプラークは付着し、放置しているとにおいのもとになります。 ②穴の開いたむし歯 むし歯になって穴の開いたところは、食べかすやプラークが溜まりやすいところです。そのままにしていると、むし歯が進行しやすいだけじゃなく、においのもと(おもに硫化水素)にもなります。重度なむし歯も口臭が出やすいです。痛みがないからとむし歯を放置しているのは良くありません。 ③歯周病 歯周病は痛みや違和感がなく進行していくので、気付かぬうちに重症化しやすいです。何もしていないのに歯ぐきから出血するというのは非常に危険なサインです。歯周病菌のなかでも病原性の強いPg菌が出す口臭物質がメチルメルカプタンです。歯周病になっている認識がないために、気付かぬうちに不快な口臭が発生している事も多いです。いわば歯周ポケットの中にガス工場があるようなものなのです。 ④深い歯周ポケット 歯の根が歯ぐきの内部で割れてしまい(歯根破折)、局所的に深い歯周ポケットができることがあります。そうした深い歯周ポケットには、どうしても歯ブラシは届きません。プラークや歯石が段々と蓄積されていき、強いにおいのもとになりやすいです。 ⑤舌苔 舌苔とは、舌の表面に蓄積した汚れのことです。舌には細やかな突起(舌乳頭)が無数にあり、そのすき間にはがれ落ちたお口の粘液や唾液の成分、食べかすなどが蓄積したもので、白色や薄黄色をしています。誰しもうっすらと舌苔はあるのですが、厚く蓄積すると細菌の温床となり、不快な口臭のもと(おもに硫化水素)となります。 ⑥汚れた入れ歯 入れ歯にもプラークや歯石はつきます。ですから、しっかり磨けていない入れ歯=プラーク(デンチャープラーク)が付着した入れ歯も不快な口臭のもと(おもに硫化水素)となります。人工歯だけでなく、歯ぐきと接するピンクの床の細かい傷にもプラークは付着します。古くなった入れ歯は傷がついている分汚れやすいとも言えます。ちなみに金属の床とプラスチックの床では、金属(自費治療)の方がプラークがつきにくいです。 ⑦つけっぱなしの仮歯 長くつけっぱなしの仮歯も、においのもと(おもに硫化水素)になります。仮歯は本来、本番の被せ物が出来上がるまでのあいだ、仮の歯として使っていただくためのものです。しかし、仮歯を入れたら痛みがなくなった、噛めるようになったからとそのまま使われる方もときどきいます。仮歯は長期間の使用を想定していないため、長くお口にあるうちに表面のプラスチックが傷ついたり、被せた歯の間にすきまが空いてきたりします。すると、傷ついた表面にプラークが付着したり、すき間にプラークが入り込みやすくなります。仮歯を外したら内部にプラークがびっしりあるということもあります。 他にも全身の病気が原因のこともあります。糖尿病や内臓疾患、便秘などお口以外の身体のトラブルから口臭が発生している場合や、持病のお薬を飲んでいてお口が乾燥し口臭が出やすくなっている場合もあります。口臭の原因になりやすい原因としては主に3つ考えられます。 ①肝臓や腎臓が悪い(肝臓や腎臓で毒素が中和されないため、老廃物を十分排泄できず口臭となって現れます)。②糖尿病(糖尿病にかかると糖をエネルギーに変えられず、脂肪を分解してエネルギーにします。その時にアセトン臭が口臭となって発生します)。③消化器系が悪い(胃腸の調子が悪くて、消化不良の食べ物がにおいを発生します)。 口臭を効果的に治療、予防したいなら、まずはお口の要因を解決していくのが近道! 歯周病がにおいのもとになっているケースは多いです。深いポケットが1日でシュッと浅くなることはなく、治療には数ヶ月かかります。歯科と二人三脚で、しっかりお口の環境を整えていきましょう。そうすればにおいは変わります。放置しているむし歯があるならこれを機会に治療しましょう。口臭の改善だけでなく、むし歯をそれ以上進行させないためにも大切です。被せ物や仮歯が臭いのもととなっている場合は、取り外して付け替えてもらうと、劇的に口臭が改善することが多いです。歯根破折を起こして深い歯周ポケットができている歯は、もたすのが非常に難しいです。痛くてもグラグラしていてもなんとか持たせているけれど、それが強いにおいのもととなっている患者さんもいます。抜いたらにおいが激減して、「早く抜いておけば良かった」とこぼす方もいらっしゃいました。歯科から内科の受診を勧められたら、ぜひご協力ください。 歯石除去や歯面研磨など、歯科の専門的なクリーニングでは溜まったプラークや歯石を徹底的に除去してくれます。硬くこびりついてしまったプラークの除去や、入れ歯のクリーニングもお任せください。あなたにあった効果的なセルフケアの方法も教えてくれます。 セルフケアのポイント ①歯ブラシ 歯磨きで食べかすやプラークをしっかり落としましょう。お口の中の細菌は、唾液の分泌が減少する睡眠中にもっとも増えますので、寝る前は必ず歯磨きをしましょう。外出時などで歯磨きが難しい時は、うがいだけでもしましょう。歯医者さんでは、あなたのお口や歯並びにあった歯ブラシや歯磨き剤、歯磨きの仕方を教えてくれます。ぜひ活用しましょう。 ②舌ブラシ こまめに歯磨きしている人でも、意識していないことが多いのが舌のケア。においのもととなる舌苔を落とすために舌も磨きましょう。舌ブラシや柔らかめの歯ブラシを使って、舌の奥から手前に優しくなでるように動かします。ただし、力の入れすぎは舌が傷ついてしまうのでNGです。 ③フロスや歯間ブラシ 歯と歯のあいだや、歯と歯ぐきの境目にもプラークは溜まります。ここに溜まったプラークは、隣接面むし歯や歯周病の原因になります。歯ブラシでは毛先が届きにくい場所ですので、フロスを使いましょう。歯間が空いている方は、歯間ブラシを使いましょう。フロスや歯間ブラシを上手く使うにはコツが要りますし、歯間ブラシはご自分の歯間のサイズにあったものを使うことが大切です。使い方にくわえ、あなたのお口、歯並びの状態にあったフロスや歯間ブラシを、歯医者さんで教えてもらいましょう。 ④入れ歯の清掃 入れ歯用ブラシによる「物理的洗浄」と、入れ歯洗浄剤「科学的洗浄」で汚れをしっかり落としましょう。「洗浄剤を使っているから磨かないで大丈夫と思う方も多いですが、ブラシでプラークを物理的に落とすことも必須です。人工歯と床だけでなく、部分入れ歯の場合は金具も磨きましょう。洗浄剤は、床の細かな傷に付着したプラークを除去するのにも役立ちます。入れ歯の形状や材質によって、適した入れ歯洗浄剤は異なります。 入れ歯の清掃の仕方とともに、おすすめの洗浄剤を歯医者さんで教えてもらいましょう。 ⑤唾液の分泌 お口が乾燥すると細菌が繁殖して、においのもととなります。鼻呼吸を心がけましょう。唾液の原料は水分なので、水分もしっかりととりましょう。人が1日に必要とする水分量は、1〜1.5リットルといわれています。緊張やストレスによっても唾液は減少し、口臭が生じます。リラックスできる時間を持ちましょう。唾液腺マッサージで唾液の分泌を促したり、ガムを噛むのも効果的です。 ⑥食習慣や生活習慣 食べ物が十分に噛み砕かれないまま飲み込まれると、胃に負担がかかります。ゆっくりよく噛んで食べましょう。よく噛むことは唾液の分泌も促します。1日3食、栄養バランスの取れた食事をとりましょう。栄養の偏りが全身の変調をきたし、口臭を生じさせることがあります。 不快な口臭はないのに本人は自分に口臭があると思っていることもあります。生理的な口臭は誰にでもありますし、どんなにお口がきれいな人でも寝起きの息はムワッとにおいます。でも、以前誰かに口臭を指摘されたことがトラウマになって、気にしている人も多いのが実情です。そんな方には、口臭検査ができる歯科医院の受診をお勧めします。検査で講習の3大原因物質の数値が低いことがわかれば安心できますし、もし口臭物質が検出されたなら、歯科治療でお口の中の原因を除去してもらいましょう。 ドライマウスについて ドライマウスは、お口の中に分泌される唾液が減少した状態のことです。ドライマウスになると、「口が乾く感じがする」「口がネバネバする」「舌が口の中でくっついてしまいしゃべりにくい」「クッキーなどの乾いた食べ物が食べにくい」「虫歯が増える」「味が感じにくい」「入れ歯が合わない」「口臭が気になる」などの症状が現れることがあります。 歯科医院では、原因を特定したり人口唾液などの処方もできますので、まずは歯科医院で診てもらいましょう。また、ドライマウスに対しては、次のような予防方法が効果的です。 ①口呼吸になっていないか意識する。マスクの下などで口呼吸になっていませんか?鼻呼吸を意識してお口の乾燥を防ぎましょう。 ②カフェイン、アルコール、ニコチンを摂取しすぎない。これらは利尿作用が高く、脱水を促しやすいために唾液の分泌低下を招き、お口の乾燥を引き起こすことがあります。 ③十分な水分を摂取する。人は1日あたり2〜2,5リットルの水分摂取が必要です。ダイエットなどで水分や食物の過剰制限を行ったり、持病のために水分、食事の摂取量に制限があるときなどに唾液の分泌抑制が生じ、お口の乾燥が起こることがあります。 ④よく噛んで食事する。 咀嚼回数の減少は唾液腺の萎縮、機能低下を引き起こし、結果として唾液量の低下をきたします。やわらかいものばかり食べていないか食事内容を見直してみましょう。 ⑤口唇のストレッチなどの運動や唾液腺のマッサージをする。 下を突き出す、上に上げる、口の中でぐるっとまわす、頬を膨らます、などお口を動かして唾液分泌を促しましょう。 ⑥味覚刺激で唾液分泌を促進する。 近年は、「うま味」にも唾液分泌促進効果があり、酸味よりもうま味のほうが唾液分泌量の増加効果が長く持続すると報告されています。日常的に昆布煮出し液によるうがいをする、またはそのままよく味わって飲むと言うのも予防法として効果的です。 食べ物で歯をきれいに ビスケット、チョコレートといったお菓子はおいしいけれども、歯にまとわりついて不快な思いをされた方もいるのではないでしょうか? このような食品は、「停滞性食品」と呼ばれ、歯の表面や歯と歯の間に粘着しやすいだけでなく、砂糖を多く含んでいたりします。虫歯になりやすいので気をつけると良いでしょう。 停滞性食品とは逆に、歯をきれいにしてくれる食べ物を「清掃性食品」といいます。これには「直接清掃性食品」と「間接清掃性食品」があります。 まずは直接清掃性食品。ごぼうやセロリ、キャベツなど食物繊維を豊富に含み、噛み野菜などをごたえのある野菜などを指します。こんにゃくも噛みごたえバッチリですね。噛むことにより歯や歯茎の表面の汚れが落ち、きれいになります。ただし直接清掃性食品の威力を発揮するには、上下の歯と歯がしっかり噛み合わないとなりません。どちらか一方の歯がないとある方の歯には、食べかすやプラーク(歯垢)が溜まって虫歯になりやすくなります。上下の噛み合う健康の歯があってこそ、直接清掃性食品でお口がきれいになるのです。一方、間接清掃性食品は、梅干しやレモンなどに代表される酸っぱい食べ物です。これらを口に含むと唾液が出てきて、食べかすやプラークがお口の中にとどまるのを防いでくれます。 唾液には汚れを洗い流す作用だけでなく、ラクトフェリンや分泌型IgAによる抗菌作用もあるため、虫歯菌や病菌などの病原菌が増えるのを防いでくれます。ですので、唾液を多く出す事はとても大切なのです。そうは言っても、虫歯や歯周病予防の基本はあくまでも歯ブラシや歯磨き剤などを使ったお口のケアです。食事の後はしっかり歯を磨いて予防に努めましょう。