
歯が長く見える変化は土台となる歯ぐきと骨の確認から
歯茎が痩せて歯が長い印象になるのは、歯そのものが伸びたのではなく、歯ぐきが下がって本来隠れている歯の根元が見えてくる「歯肉退縮」が起きているためです。見た目の変化だけでなく、歯を支える顎の骨や歯ぐきの状態を確認し、歯を残して機能させるために何が必要かを考えることが出発点になります。丁寧に磨いていたつもりの習慣が負担になっていないか、気づかないうちに歯周病が進んでいないかと不安を抱える方もいます。この記事では、歯科医院で原因を見分ける検査や進行を抑えるケア、露出した根元を覆う処置の条件と限界を整理します。
この記事の要点まとめ
- 歯が長く見えるときは、歯周病や強すぎる歯みがきなど、いくつかの原因が関わります。
- 検査で歯ぐきと骨のようすを調べ、みがき方の見直しや歯周基本治療で、進むのをおさえることを目指します。
- CTGとFGGは目的や向いている条件がちがうため、お口の状態や費用、通院の回数をあわせて相談します。
歯茎が痩せて歯が長く見えるのはなぜ?受診を考えたい変化は?

歯が以前より長く見える場合、歯が伸びたのではなく、歯ぐきが下がる「歯肉退縮(しにくたいしゅく:歯ぐきが下がって歯の根元が露出する状態)」によって歯の根元が見えている可能性が考えられます。見た目の変化にとどまらず、歯を支える歯ぐきや骨の状態を確認する必要があります。
歯が長く見えるときは、歯ぐきと骨の状態から考える
当院では、大切な歯を残すためには歯そのものだけでなく、歯ぐきや顎の骨の状態を健康に整える必要があると捉えています。建物にたとえるなら、歯は「しっかりとした家」であり、歯ぐきや顎の骨はそれを支える「安定した土地」にあたります。
どれほど家をきれいに保っていても、土台となる土地が痩せてしまえば家は傾いてしまいます。鏡を見て歯が長く見えると感じたときは、年齢のせいだと決めつけず、まず土台である歯ぐきと骨の状態を調べることが先決です。
歯周病・強い歯磨き・かみ合わせなど、歯ぐきが下がる主な要因
歯肉退縮は一般の成人において広くみられる変化であり、複数の要因が関わることが報告されています12。
主な要因の一つが、歯周病によって歯を支える骨(歯槽骨)が少しずつ減り、それに伴って歯ぐきも下がっていく経過です。また、力を入れすぎた歯みがきや歯ぎしり、年齢を重ねることによる変化など、歯ぐきが下がる原因はさまざまです3。
歯ぐきが下がって根元が見えたり歯と歯の隙間が広がったりすると、歯そのものが大きくなったように見えることもあります。これらの要因は一つに絞れず重なっていることも多いため、自己判断で原因を決めつけないことが大切です。
しみるだけか、出血・腫れ・ぐらつきもあるかで受診の急ぎ方が変わる
見た目が変わった、冷たい水が少ししみる(知覚過敏)くらいでも、しばらく歯科検診を受けていないときは、早めに状態をたしかめておきましょう。歯ぐきが下がって出てきた歯の根は、表面がエナメル質より酸にとけやすい象牙質のため、根元のむし歯(根面う蝕)になりやすくなります4。
一方で、歯磨きのたびに出血する、歯ぐきが腫れている、膿が出る、歯ぐきを押すと痛い、歯がぐらつくといった変化がある場合は、歯周病の進行も視野に入れて早めに歯科医院を受診してください。
ポイント
歯が長く見える変化は、強すぎる歯みがきや歯周病など、いくつかの原因が重なって起こります。しみる、血が出るといったときは、早めに土台となる骨と歯ぐきのようすをたしかめましょう。
磨きすぎか歯周病か、歯科ではどうやって見分ける?
鏡で見ただけでは、歯ぐきが下がった原因が磨きすぎによるものか歯周病によるものかを切り分けることは困難です。歯科医院では、レントゲンや歯周ポケットの検査などで歯を支える組織の状態を確認したうえで、治療やケアの方向性を考えます。
原因と治療の方向性を考えるために歯科で調べること
当院では、予防のための検査として、レントゲン写真、歯周ポケットの深さ、唾液の性質を調べます。患者さんごとのお口のようすをつかみ、これからの進め方を一緒にたしかめていきます。
レントゲン写真では歯を支える顎の骨の高さや厚みを確認し、歯周ポケット検査では歯と歯ぐきの境目の溝の深さや出血の有無を調べます。骨の減少や深い歯周ポケット、出血がみられる場合は歯周病の関与を考え、骨が保たれていて歯ぐきの炎症も少ない場合は、歯磨きの力や当て方、かみ合わせの影響などを中心に検討する手がかりになります。さらに唾液の性状も調べることで、むし歯や歯周病に対する口内のリスクを多角的に把握します。
歯石を取ったら歯ぐきが下がった?見え方の変化と進行の違い
「歯医者さんで歯石をとると歯ぐきが下がる」と聞いて、受診をためらう方もいます。これは、処置のあとの見え方の変化と、実際に歯ぐきが下がり続けている状態とが、まざって受けとられているためです。
歯石がついている周囲の歯ぐきは、炎症によって赤く腫れて膨らんでいることが少なくありません。スケーリング(歯石除去)やルートプレーニング(歯根の表面の清掃)によって汚れを取り除くと、歯ぐきの炎症が引いて本来の引き締まった状態に戻ります。
その結果、腫れていた歯ぐきで隠れていた歯の根元が見えるようになり、「歯石を取ったせいで歯ぐきが下がった」と感じることがあります。これは炎症が落ち着いたことによる変化であり、病気が進んで骨や歯ぐきが失われた状態とは意味が異なります。どちらの状態であるかは、検診で経過を見ながら判断します。
磨きすぎで下がった歯茎は戻る?進行を抑えるためにできることは?
一度下がってしまった歯ぐきは、毎日のセルフケアだけで元の位置まで自然に戻ることは期待しにくいのが実情です。ただし、原因に合わせたケアの見直しと歯周基本治療を行うことで、これ以上の進行を抑えて今の状態を守ることは目指せます。
磨き方は口内の変化を見ながら見直す
「歯を失いたくない」という思いから、硬めの歯ブラシで力を入れて丁寧に磨いてきた方もいます。その行動自体は歯を守ろうとする前向きな気持ちの表れであり、ご自身を責める必要はありません。
当院の歯科衛生士は、お口の変化を続けて見ながらケアのやり方を提案し、ご自宅で試していただいたあとの結果も大切にしています。歯ブラシの毛のかたさや当てる角度、力の入れ方は、歯ぐきの厚みや歯の並び方によって合う方法が変わります。自分のやり方で道具を変える前に、実際のお口のようすを見ながら一緒にみがき方を見直していきます。
受診までのセルフケアで避けたいこと
歯科医院を受診するまでの間、気をつけたいのは「汚れを落とそうとして根元を力任せにゴシゴシこすること」です。歯ブラシを強く押し当てて磨くと、歯ぐきだけでなく、出てきた歯の根元まですり減ってしまうことがあります。
反対に、冷たいものがしみるからといって歯磨き自体を避けてしまうと、プラーク(歯垢)がたまって歯ぐきの炎症やむし歯を招きやすくなります。1日に3回磨くこと自体よりも、強い力や硬い毛先で同じ場所をこすり続けることが負担になりやすいため、受診までは優しい力で小刻みに動かすようにして清潔を保ってください。
歯周基本治療から再評価、外科処置の検討へ進む順序
歯肉退縮の背景に歯周病が関わっている場合、いきなり手術を行って歯ぐきを戻そうとするわけではありません。まずは歯石の除去やクリーニング、日々のブラッシング方法の見直しといった歯周基本治療を行い、歯ぐきの炎症を抑えることから始めます。
基本治療のあとに再び検査(再評価)を行い、歯ぐきの腫れや出血がどの程度落ち着いたか、歯周ポケットが浅くなったかを確かめます。そのうえで、なお深いポケットが残っている場合や、根元の露出に対して外科的な処置が必要かどうかを検討するのが基本的な順序です。見た目の改善だけで手術の要否を決めず、まずは口内の環境を安定させることが土台になります。
ポイント
下がった歯ぐきはセルフケアだけでは元に戻りにくいものの、磨き方の見直しと歯周基本治療によって進行を抑えることを目指せます。
露出した根元は手術で覆うべき?処置を選ぶ前に知っておきたい条件と限界は?

露出した歯の根元を覆う外科処置は、見た目の配慮だけでなく、しみる症状(知覚過敏)や根元のむし歯を防ぐ目的も含む選択肢です。ただし、すべての歯に適応できるわけではなく、処置を受ければ必ず元の状態に戻るとも限りません。
下がった歯ぐきに対するCTGの目的と確認したい条件
当院では、歯周病などで歯ぐきが下がってしまった場合に、お口の中の上顎から採取した結合組織(3層構造の歯ぐきの真ん中の層)を下がった部分へ移植するCTG(結合組織移植術)や根面カバーに対応しています。当院では、これらの処置は見た目の配慮に加え、知覚過敏やむし歯の予防にもつなげる治療として説明しています。
ただし、移植した組織が定着して根元をどこまで覆えるかは、周囲の顎の骨の高さや歯ぐきの厚み、歯並びなどの条件に左右されます。歯と歯の間の骨が大きく減っている場合などでは、根元を十分に覆うことが難しいケースもあります。また、外科処置には、移植した組織が感染などで定着しないといったリスクがあります。処置のあとの痛みや腫れ、時間がたって歯ぐきがまた下がる可能性も含めて、事前に条件をたしかめておくことが大切です。
根元を覆うことと、硬く動かない歯ぐきを補うことの違い
歯ぐきを移す処置にはいくつかの方法があり、足りない組織と目的によって使い分けます。当院では、歯ぐきの中でも「硬く、動かない部分(角化歯肉)」が足りないときに、上あごの組織(上の2層)をとって歯の根元やインプラントのまわりに移すFGG(遊離歯肉移植術)を行っています。
CTGは、主に下がった歯ぐきを補い、出てきた歯の根元を覆うための処置です。一方、FGGは硬く動かない歯ぐきを補い、毎日のお手入れをしやすくすることがおもな目的です。そのため、FGGは下がった歯ぐきのラインを元の高さへ戻して見た目を整える処置とは位置づけが異なります。
| 処置の名称 | 主な目的 | 移植に用いる組織(当院の説明) |
|---|---|---|
| CTG(結合組織移植術)・根面カバー | 露出した歯の根元を覆い、見た目への配慮や知覚過敏・むし歯の予防につなげる | 上顎の健康な歯ぐきのうち、真ん中の層(結合組織) |
| FGG(遊離歯肉移植術) | 不足している「硬く動かない歯ぐき」を補い、歯磨きなどのお手入れをしやすくする | 上顎の健康な歯ぐきのうち、上の2層 |
このように、一口に歯ぐきの移植といっても、根元を覆いたいのか、清掃しやすい環境をつくりたいのかによって選ぶ処置が変わります。
歯を残す可能性と、残した歯が働くかを考える
歯ぐきだけでなく顎の骨までダメージが及んでいる場合は、患者さんご自身の骨の一部や骨補填剤を使う歯周組織再生療法などが検討されることもあります。骨が欠けた部分への再生療法の効果については、研究でも検討が重ねられています。
当院では、失った歯の機能を補うインプラント治療には多くの利点があると考えていますが、まずはさまざまな歯周外科治療を通して、患者さんの天然の歯を残す努力をします。それでも歯を残すことが難しい場合だけでなく、たとえ残せたとしてもその歯に噛むための十分な機能を期待できないと判断される場合には、しっかりと噛める状態をつくる選択肢としてインプラント治療を検討します。
通院回数や費用を相談するときに確認しておきたいこと
歯ぐきが下がったときの治療には、歯周基本治療のように健康保険が使えるものと、自費の治療になるものがあります。骨の再生療法を自費で行う場合、一般的には1部位(1〜2歯ほど)あたり5万〜15万円ほどと幅があります。当院では、根面カバーや歯ぐきの移植を66,000円、インプラントとあわせて行うFGGを1ブロック5万円として公式サイトでご案内しています。
治療を相談する際は、提示された費用に検査代や薬代、術後の消毒・抜糸などの処置が含まれているかを事前に確認しておきましょう。そうすると、後から思っていなかった出費に戸惑わずにすみます。あわせて、抜糸や経過観察を含めた通院回数、術後に硬い食事や該当部位の歯磨きを控える期間など、お仕事やご家族の付き添いといった予定と両立できるスケジュールかどうかも歯科医院へ伝えて相談してください。
一般的には、処置のあとの注意点や経過を見るための通院も含めて、生活に合わせた治療の計画が案内されます。気になる点があれば、事前に相談しておきましょう。
ポイント
根元を覆う処置(CTG)と硬い歯ぐきを補う処置(FGG)は目的が異なります。骨の状態や残した歯が機能するかを見極めたうえで、通院回数や費用も含めて治療法を選択しましょう。
よくある質問
Q. 歯磨きを1日3回行った場合、磨きすぎは問題になりますか?
A. 1日3回磨くこと自体が、歯ぐきを下げるおもな原因になるわけではありません。注意したいのは回数よりも、「硬い歯ブラシを使っている」「強い力でゴシゴシこすっている」「歯ぐきに毛先が強く当たっている」といった磨き方の負担です。1日3回磨く場合でも、力を抜いて優しく小刻みに動かす方法であれば歯ぐきへの負担を抑えられます。
Q. 溶けてしまった歯槽骨(歯を支える骨)は自然に再生しますか?
A. 歯周病などで減ってしまった歯を支える骨(歯槽骨)は、毎日のセルフケアだけで元の高さまで戻ることは期待しにくいものです。そのため、まずは歯周基本治療や毎日のケアで、骨がこれ以上へらないようにすることを優先します。骨の欠け方などの条件が合うときは、骨の再生を目指す「歯周組織再生療法」を歯科医院で検討することがあります5。
Q. 歯科検診で「歯茎を見る」のにはどのような意味がありますか?
A. 歯科検診で歯ぐきを調べるのは、むし歯の有無だけでなく、歯を支える土台(歯ぐきと顎の骨)が健康に保たれているかを確認するためです。歯周ポケットの深さやプローブ(検査器具)が触れたときの出血、歯ぐきの下がり具合や硬さを記録することで、自覚症状が出にくい歯周病の進行や、ブラッシング圧による負担を早い段階で見つける手がかりになります。
参考文献
1. Marschner F, Lechte C, Kanzow P et al. Systematic review and meta-analysis on prevalence and risk factors for gingival recession. Journal of dentistry. 2025. PMID: 39988303 / DOI: 10.1016/j.jdent.2025.105645
2. Yadav VS, Gumber B, Makker K et al. Global prevalence of gingival recession: A systematic review and meta-analysis. Oral diseases. 2023. PMID: 35735236 / DOI: 10.1111/odi.14289
3. 数字でみる歯のはなし|「歯の学校」 WEBで学ぶ、歯と口の健康。|日本歯科医師会. https://www.jda.or.jp/hanogakko/vol81/number.html
4. むし歯 – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020. https://www.jda.or.jp/park/trouble/index02.html
5. 歯周組織再生療法 | KOMPAS – 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト. https://kompas.hosp.keio.ac.jp/presentation/202202_2/
6. 岩手医科大学附属病院 矯正歯科(矯正歯科、いびき歯ぎしり外来) https://www.hosp.iwate-med.ac.jp/clinics/d06/
7. 公立大学法人 九州歯科大学附属病院 歯科麻酔科・ペインクリニック https://www.kyu-dent.ac.jp/hospital/specialty/anesthesia/
四天王寺高校卒
大阪大学歯学部卒
勤務医を経て
2010年「いまもと歯科クリニック」を奈良県 葛城市北花内にて開院
インプラントメーカーインストラクター
IDIAドミニカインプラント、サイナスリフト実習セミナー 受講
Botis人工骨、BGR(骨再生誘導)セミナーinシンガポール 受講
CGF(完全自己血由来フィブリンゲル)セミナー 受講
マイクロサージェリーインプラント・歯肉移植、実習コースセミナー 受講
牛ぐぼエンドアドバンスコース 受講
石井エンド 受講
JIADS 受講
SJCD 受講
JIPI 受講
JPI 受講

